■掲示板に戻る■
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
801-
901-
1001-
最新50
レス数が1000を超えています。残念ながら全部は表示しません。
IP パケット − はるかなる旅
196 :
IeR
◆R.e180t.
:01/12/14 01:27
僕の形ができかけてる。僕はたった今作られた。兄弟も幾人か居るらしい。
できあがったばかりの僕に、ご主人様から声がかかった。
「いいか、お前たちに運んで欲しいものがあるんだ。」
そういってご主人様から渡された荷物は何やらよくわからない、
スーツケースのようなものに入っていた。一人に一つずつ、大きさは
同じだけど重そうなのも軽いのもあった。
「これが、行き先のメモで、こちらがお前の出自証明書。
この二つは無くすんじゃないぞ。もし行き先がわからなかったら
そこに居る人にこれを見せてたずねろ。帰るときは同じように
出自証明書の方を見せるんだ。そうすれば迷うことはない。」
荷物と同じくらい大事そうにご主人さまは小さな紙片を僕達の手に乗せた。
ご主人様が何をしている人なのか、そんなことすら僕らは知らない。
でも、ご主人様は僕らを造り、僕らを必要としてくれる。だから僕らは
ご主人様のために動く。頂いたメモを握りしめて、我先にと道へ飛び出した。
飛び出したまではよかったけれど、生まれたばかりの僕らには、行き先が
どこにあって、どうやって行くのは見当もつかない。おまけに、僕ら同士は
喋ることもできない。相談しようにもみんな涙目になって紙きれをながめる
だけでちっともらちがあかない。みかねたご主人様が、あっちだ、と道を
指差した。とたんに皆の顔は晴れやかになる。
UTP Category 5と立て札のある通りを僕らはハシャギまわり、ふざけあい、
道に歩いてるたくさんの人の影に隠れ、後になり先になりしながら進んだ。
すると目の前に大きな壁が表われた。FireWallっていう大きな文字が
上の方にかけてある。もっと近づいてみると、壁には二つのドアがあって
片方に「外へ出る人はこちらにお並び下さい」と書いてあった。
すでにパラパラと人が並んでいる。僕らもその後ろにくっついた。
197 :
IeR
◆R.e180t.
:01/12/14 01:29
一人、また一人、と順々にドアの中に入っていき、とうとう僕の
番がやってきた。「次の方、入って下さい。」という声がする。
ドアを空けると、そこは小さな部屋になっていた。反対側の壁に
同じようなドアがある。左側に、受け付けがあって、ガラスの中に、
若いお姉さんが居た。さらにその向こう側は、丁度こちらと対称的な
作りになっている。きっと表で見た出口のための受け付けなんだろう。
僕はお姉さんの方に歩みよった。胸の名札に[natd]と書いてある。
「出自証明書を見せてくれる?」
そう言われて、僕はご主人様から貰った出自証明を差し出した。
「この出自証明書は私が預からせてもらうわ。代わりにこっちの
カードをあげる。」
お姉さんはそういって、僕の持って来た出自証明書を機械の中に
滑りこませ機械がそれと入れ代わりに吐いたカードを僕に差し出した。
「ちょっと待って、それは困るよ!その出自証明書はとっても
大切なんだ!ご主人さまのところに帰るのに、それが要るんだ。
返してよ!」
僕がちょっと語気を強めたのにも一向構わずに、お姉さんは僕をみて
ニコリと笑った。ドキッっとして僕の体が硬くなった。
その時、お姉さんの居る、小さな受けつけの小部屋を狭んで
反対側のドア、さっき外から見た出口の方のゲートの外に向いた
ドアが勢いよく開いた。体格のイイ男が一人、そこから駆けこんで
きて、お姉さんに向かってまくしたてた。
「坊やの相手してるとこスマねぇな、ちょっと急ぐんだ!ここに
俺の出自証明書がある。中で通用する奴に変えてくれねぇか。」
ふり向いたお姉さんは、
「お呼びする前に入られちゃ困るわ、何をそんなに急ぐの。」
と、眉を顰めはしたが、すぐに相手の出自証明書を、僕のにした
ように機械に入れ、出てきたカードを男に渡した。
「急いでこのカードを中に居るダンナに届けなくちゃいけなくてな。
インスタントメッセンジャー風情が、と馬鹿にはされるが早く相手の
返事が見てぇのが人情ってもんだろ?」
男はカードを握りしめ、一言言い残して出ていった。
198 :
IeR
◆R.e180t.
:01/12/14 01:30
「ごめんなさいね。」
そういって、お姉さんはまた僕の方に向いた。
「今のでだいたいわかった?君が持っている出自証明書は、この中で
しか通用しないの。『外』とは世界が違うのよ。」
「だから、僕の出自証明書をこのカードに変えたの?」
僕はさっき受けとったカードを眺めた。
「ええ、それがあれば、『外』に出てもココに変えってこれるわ。
その時に、ここでそのカードを見せて。そうすれば、あなたの元の
出自証明書を返してあげる。イイ男になって帰ってきてね。」
お姉さんはいたずらっぽく笑った。
「僕がイイ男になって帰ってくるまで、オバさんにならないでね。」
僕も笑い返した。お姉さんは一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐに
笑顔に戻って言った。
「大丈夫よ、あなたの時間の流れと私の時間の流れは違うから。
だから、あなたが相当の時間をかけて帰って来ても、きっと私は、
今とほとんど変わらないわ。」
「えっ?」
どういうことだか僕にはよくわからなかった。
「パケットなんて儚いものだと言うことよ。
さ、次の人が待ってるだろうから。」
そう言われて、僕ははっと、後ろに並んでいた人達のことを思いだし、
お姉さんにちょっと手をふって、急いで外へ向かう扉を開けた。
眩いほどの光に思わず目がくらむ。
僕は不思議な感覚に包まれた。僕の体も光に融けていく……??
次100
最新50
read.cgi ver5.26+ (01/10/21-)